熊本でカレー店をやっていた時のことだ。常連のお客様でもありBONGAマスターの若い友人で路上バイオリニストでタロット占い師でもあったドズル君が浮かない顔で話しかけてきた。

「どうも風邪をひいたのか食欲がないんです。なんか風邪に効く飲み物ありますか？」

「わかりました。なんか作ってみましょう」

BONGAマスターが思いついたのがホットチリミルクの要領で、店でお出ししている『チャイ』に赤唐辛子を入れて煮だしたもの。

黙ってお出しした。

「わ！うぁー」

一口飲んだドズル君の声だ。

「何ですかこれ？」

 　

唐辛子（チリ）には新陳代謝を高くし、ステロイドホルモンを刺激するので、天然のドーピング効果がある。

（2009年日本香辛料協会）

しかも強力な殺菌作用と発汗作用があり、消化液の分泌を促し食欲を増進させるのだ。

 

と説明するとドズル君は納得顔で

「効きそうな気がする」と言って飲み干した。

すぐに彼の丸っこい顔が真っ赤になり、汗が吹き出して来た。

その後、彼はいつものように大盛カレーを注文し、完食して、元気に夜の路上コンサートに出かけて行った。

 

そんな経緯(いきさつ)で出来上がったのが『赤唐辛子チャイ』だ。

当初のものよりずっと美味しく飲めて、しかも効能はそのまま。

風邪の引き初めや食欲不振の時はもとより、疲れの取れない朝や頭がぼんやりしている時に、わが家でも愛飲している。

 

この『赤唐辛子チャイ』を飲むと、その1年後、若くして急死したドズル君が路上で得意げに弾いていた

『パッへルベルのカノン』のバイオリンの音色を思い出す。

 

ちなみにドズル君の名前は『機動戦士ガンダム』に登場するジオン公国宇宙攻撃指令『ドズル・ザビ中将』からとったあだ名だそうだ。